遊技租界 『佐渡屋太郎のパチンコ商売道日記』

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土を盛る(2012佐渡日記④)【佐渡屋太郎-vol.264】

佐渡の畑から採集した直後の植木たち

いまは12年10月16日(火)の17時25分。先月下旬から突発的に原稿の依頼が、固まってやってきて、とんだ事態に陥ってしまった。急ぎのものは月末までに仕上げて、第1のハードルを越えた。そのまま休みなしで月初から原稿を書き続け、先週末でやっと第2のハードルをクリアすることができた。しかし、まだ4本の原稿を引きずっている。これを何とか今週中に片付けてしまわなくてはならない。今週末からはすでに10月末締切の原稿の取材が始まるからだ。

というわけで、このブログも半月以上にわたりアップができなかった。一時期、ポカっと空いた時間もあったのだが、ブログを書く気持ちの余裕がなかった。ではその間、何をしていたかというと、本を読んでいた。一番おおかったのがやはり桐野夏生の本で、『魂萌え!』(新潮文庫、2006年刊)、『グロテスク』(文春文庫、2006年刊)、『柔らかな頬』(講談社、1999年刊)、『顔に降りかかる雨』(講談社文庫、1996年刊)、『水の眠り 灰の夢』講談社文庫、1998年刊)と読み継いできた。いま『天使に見捨てられし夜』(講談社文庫、1997年刊)を読んでいて、あと『ダーク』(講談社文庫、2006年刊)を読み終われば、桐野夏生の手持ちの本がなくなってしまう。これでやっと、仕事に集中できそうだ。

さらに、個人的な問題も2つほど抱え込んでいて、その方にもかなり時間を割かれてしまった。しかし、その甲斐があって、一方は無事解決をみて、あと一方もねじれた糸がやっと解(ほぐ)れだし、あと解決までは時間の問題となるところまで、力づくで持ってきた。まったく、“いやはや”という気分である。まさに人生多難――その“多難”が佐渡屋太郎を厳しく育ててくれている。その間、私の心を癒してくれたのは、今年の夏に佐渡から持ってきた植木たちであった。

畑のジャングルにあったモミジの木の下にあった子供のモミジ)

それが、今回のテーマでもある。実は今年の夏も、佐渡から10鉢もの植木を略奪してきた。しかし、今年は新たな採取方法を考え出し、それがまんまと成功しているのである。思い返せば、佐渡に帰る2日前、突然にある“考え”が天から私の頭に降りてきたのだ。その考えとは、鉢を持って帰って、その鉢に植木が生えている土ごと植え込んで、京都に持って帰るという方法である。この考えが浮かんできた背景には、2つの重要な考察と要因があった。

まず1つ目は、なぜ佐渡に残してきたモミジは順調に育っているのに、大阪や京都に持ってきたモミジは枯れてしまうのか、という素朴な疑問であった。佐渡からこれまでに10数本のモミジの苗木を持って帰ってきたが、やっと根付いて生きているものは1本しかない。ひどいものになると、大阪駅に着いた時点で、すでに葉が茶色に枯れてしまっていたというものもある。いままでは、遠い道のりを越えてくるのだから、仕方のないことと諦めていたのだ。ちなみにこれまでは、採集した苗の根に最少の土を付けてビニールで包み、それらをビニールバッグに入れて持ってくるという運搬手法を採っていた。

根付いてどんどんと背をを伸ばしている成長株のモミジ

しかし、それなら予め鉢を持って行き、その鉢に根付いていた土とともに、苗木を採集して植え込んだらいいのではないか。つまり、育ってきた環境のまま略奪してくるという方法を思いついたのである。その背景には、枯れる原因として土が合わないことと、移動中の水分不足という2つの要素を見出したことがある。より大きな原因は、土が合わないことだろう。考えてみれば、佐渡の畑の土はネチャネチャの赤土である。これは昔、田んぼであったところを畑にしたからだ。しかし、私はそれら植木を大阪や京都で鉢上げするときには、培養土を使っていた。ここに根本的な間違いがあったのではないかと気付いたのである。

いまごろになって気付くのも、何とも恥ずかしい話ではある。しかし、植木にとってそれまで育ってきた土が、母の胎内のように最適な環境であることは疑いようがない。それなら、できるだけ深く掘って根と土を確保し、すぐ鉢に入れて母胎ごと京都に持ってこようと考えたわけだ。これなら土が合わないことも、水分不足を生じることもない。これが植木採集における最良の方法ではないかと思い付いたのである。佐渡に置いてきた植木は、最初からその方法を用いてきた。だから、いままで逞しく生き延びているのではないか。決して、気候や日当たりの問題ではないというのが、その時の私の結論であった。

根付いて新葉を出すツバキ。横の小ツバキも根元から芽が出てきた

2つ目の要因は、昨年から弟である佐渡屋次郎の車で帰ってきていることである。これまでは、電車や飛行機で帰ってきていたので、鉢植えを何個も持ってくることはできなかった。今回、持って帰ってきた10鉢は、ダンボールに入れたら2箱分になった。しかし、車なら何の苦労もなく運べる。この絶好の機会を利用しない手はない。改めて、弟の存在、いや運んでくれる車の存在を有難いと思った。ただ、それだけではない。そのほかに持ってきたものは、フォークギターや本、米をはじめダンボール7箱分に相当する量になった。使えるものは、徹底的に利用する。これは、人生多難の道を歩んできた佐渡屋太郎が学んだ、1つの生き延びる哲学でもある。

強い力で再生しようとしているクスノキの苗木。横からナナカマドが芽を出してきた

なんやかやと言いながら、私の人生はツキに恵まれてきた。負ける勝負もあったが、勝つまで諦めず勝負を続けたことで、最終的には勝ったことしか記憶にない。これはまさに自己満足であるが、自信を持った方が勝ちなのである。この“モミジ戦線”も、過去3年にわたって、連戦連敗を続けていた。しかし今回、これら2つの要素がからみあい、私に1つの光明を与えてくれた。勝つ時には、それまでの敗因が瞬時にすべて見えてくる。だから、勝てるわけだ。それは今までより1段上のステージに立つことであり、私たちはこのことを“ひと皮むける”と言ってきた。私は今年の夏に、モミジに関して“ひと皮むけた”ような気がしている。

では現在、佐渡から持ち帰ってきたモミジたちは、どのようになっているのであろうか。まず、略奪してきた10鉢の内訳は、モミジ=5鉢、ツバキ=3鉢、クスノキ=1鉢、ツツジ=1鉢であった。そのうち、ツバキの1鉢を除き、9鉢の全てが根づいて成長している。枯れたツバキも、一時は根元から新芽が出たのだが、その新芽が枯れてしまった。しかし、また時間が経てば、新たな新芽が出てくるのではないかと期待している。ここでは植え替え成功率“9割”と報告しておく。

さらに、嬉しい誤算もあった。それは、佐渡から採取してきた土の中に、様々な種類の種が眠っていたということだ。それが、京都に来てから芽を出して大きな葉を拡げている。草類を別にして、植木として確認できたのは、ヤマブドウ、ケヤキ、ナナカマドの3種である。その他にも、念の為に採集してきたモミジの小苗もどんどんと背を伸ばしている。この結果から、今回の“土ごと採集作戦”は見事に成功したと言えるだろう。思わぬ副産物まで得られ、私はこの上ない幸福感に浸っている。

山を崩すときに見つけたツツジの苗木。盛土に根を出していた生命力にあふれた期待の新人である

あと1つの収穫は、佐渡の畑にあった“赤土”の威力を認識できたことだ。これまで植え替えには培養土を使っていたが、木にはこの“赤土”がことのほか相性がいいということを、今回の件で痛感した。途中まで成長したのに、ある時期を過ぎると枯れてしまったこれまで例は、土に問題があったのではないかと思う。佐渡から持ってきたものでも、サザンカ、ヒサカキ、竹のハチクなどは立派に根付いているが、それらは土を選ばない強い適応力があったということなのだろう。そこで先日、赤玉土を買ってきて、瀕死の植木の植え替えを敢行した。その結果も今後の楽しみの1つとなっている。

佐渡に行ってから2ヵ月が経った。その間、朝起きるとまずベランダへ出て、佐渡から持ってきた植木の成長を見る日々が続いている。それにしても、大きな収穫であった。これら植木を眺めていると、あの過酷な作業に追われた夏の日のことが懐かしく思い出される。9月に入ってからいままで、仕事に追われまくられているので、佐渡での日々が遠い昔の出来事であったような気がしてくる。まだ、母親からナシが送られてこない。今年は「おけさ柿」も一緒に送るように頼んだ。あれから地球はどんどん冷えてきて、秋がどんどんと深まっている。(佐渡屋太郎)

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